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馬と暮らすまち遠野 ―いまも息づく馬事文化と物語

馬とともに暮らしてきた遠野。
遠野には、今も馬とともに生きる文化が息づいています。山々に囲まれた盆地で、馬は農耕や運搬の力として、また信仰の象徴として、人々の暮らしに深く寄り添ってきました。馬を「馬っこ」と呼び家族のように大切にしてきた遠野では、曲り家の生活、流鏑馬(やぶさめ)、馬搬(ばはん/地駄引き)、放牧文化など、多彩な馬事文化が受け継がれています。本特集では、遠野ならではの“馬と生きる風景”をご紹介します。

🎥 遠野人馬一体 ~蹄の跡がつなぐもの~

 

馬産地・遠野 ― 馬と生きる土地が育んだ文化

馬と暮らすまち遠野 ―いまも息づく馬事文化と物語1

遠野では、馬は古くから“農家の宝”として大切にされ、農耕・運搬・交易の力として地域の暮らしを支えてきました。三陸沿岸と内陸部を結ぶ交通の要所であったことから、駄賃付けで活躍する物資を運ぶ駄送馬(だそうば/荷物を運ぶための馬)の需要も高く、背に重荷を負い、急陵な坂道、峠越しの難路に堪え得る、力強く持久力のある馬が育てられてきました。

南部氏の時代には甲斐国馬・陸奥馬・道産馬など多様な血統が導入され、遠野独自の馬が形成されます。源義経の愛馬「小黒」が遠野で生まれたと伝わるなど、優れた馬を輩出してきた歴史も残ります。明治以降は洋種馬の導入が進み、戦後には乗用馬の育成体制が整備され、現在の「遠野馬の里」へとつながっています。

こうした自然環境と交通の役割が重なり、遠野ならではの馬文化が生まれ、“馬とともに生きる土地”として数多くの物語を生んできました。現在でも、気軽にその文化を体感することができます。

◉遠野馬の里

乗用馬の本格生産と国産馬の安定した供給を図るため、主に日本中央競馬会、岩手県競馬組合、岩手県などの支援を受け、平成10年3月、松崎町駒木に「遠野馬の里」が整備されました。遠野馬の里では、競走馬育成調教施設の管理、乗用馬・農用馬の繁殖改良と育成調教、乗用馬ふれあい事業を柱に運営を行っています。

◉遠野市立博物館

遠野市立博物館は、国内でも屈指の民俗専門博物館で、『遠野物語』の世界を豊富な映像やジオラマ、実物資料で紹介しています。年間3〜4回、『遠野物語』や民俗をテーマにした企画展が開催され、訪れるたびに新しい発見があります。

 

曲り家 ― 馬と人が共に暮らした家

L字型の伝統家屋「曲り家」は、住居と厩(うまや)が土間でつながった独特の構造。冬の厳しい遠野でも、馬の様子をすぐに感じ取れる“家族”として人と馬が同じ屋根の下で暮らす、”独特の距離感”がありました。岩手県の旧南部藩領に多く見られることから「南部曲り家」とも呼ばれます。
南部曲り家が多数保存されている「遠野ふるさと村」では、馬に関連する年中行事も実施されます。

◉馬っこつなぎ

藁馬(わらうま/藁で作った馬)を田の水口や道の分かれ道に供え、豊作や水の安定を祈る行事。
「田の神様が藁馬に乗って作柄を見回る」と伝えられています。2026年は6月7日に開催され、年中行事だけでなく、わら馬つくり体験や、餅つきも合わせて実施されます。
馬と暮らすまち遠野 ―いまも息づく馬事文化と物語1

◉遠野ふるさと村

遠野ふるさと村は、遠野の昔の農村集落を再現した観光施設です。手入れが行き届いた里山の自然の中に、馬と人が共に暮らしていた南部曲り家を移築・保存し、昭和初期の農村の風景をイメージして整備されています。

人々のくらしを支えてきた馬は、『遠野物語』にも、娘と馬の恋物語たるオシラサマをはじめとして多く登場し、100年以上前にはいかに馬と人とが共に過ごしてきたのかを知ることができます。また、馬産の神を祀った神社や、馬頭観音・馬頭供養塔など、馬を敬い弔う文化を今も遠野市内で見ることができます。

◉伝承園

遠野伝承園は、遠野に伝わる民話の世界を体感できる施設です。国の重要文化財の曲り家「旧菊池家住宅」や千体のオシラサマを祀る「御蚕神(オシラ)堂」の他、『遠野物語』の話者・佐々木喜善に関する資料を展示しています。

◉荒川駒形神社

附馬牛町の荒川高原へ向かう道路の途中にある、馬産地遠野を代表する神社です。荒川駒形神社は市内に複数ある駒形神社の中でも特に有名で荘厳な雰囲気に包まれています。社殿の手前には幾つもの鳥居が奉納されていて、表参道と帰り参道と分かれています。

 

遠野南部流鏑馬 ― 神事として受け継がれる人馬一体の芸能

馬と暮らすまち遠野 ―いまも息づく馬事文化と物語

遠野南部流鏑馬は、南部氏が鎌倉鶴岡八幡宮の神事にならって奉納したことに始まり、遠野では寛文2年に遠野郷八幡宮で奉納されたのが起源とされます。明治期に一度衰退しましたが、昭和28年に地元有志が復活させ、現在も神事として奉納が続いています。

◉遠野郷八幡宮

遠野を代表する神社である遠野郷八幡宮。遠野市最大の祭り「遠野まつり」の2日目は遠野郷八幡宮を会場に流鏑馬が奉納され、その後は馬場巡りが行われ、毎年多くの観光客が訪れます。

流鏑馬は、およそ千年前、戦(いくさ)の主体であった騎射(うまゆみ)の技を磨くために行われた競技が起源とされています。
南部流鏑馬は、神事でありながら実践に応用できる競技として受け継がれて来たと言われています。この「やぶさめ」における、「技を競い合う」という競技性に着目し、ルールを定めてスポーツ競技化したのが「やぶさめ競技」です。例年遠野市では全国やぶさめ競技大会が開催されています。

◉全国やぶさめ競技大会 第19回遠野大会

2026年6月7日に早瀬川河川敷特設会場で「全国やぶさめ競技大会 第19回遠野大会」が開催されます。 180〜200mのコースに3つの的が設置され、初級〜プロ級、団体戦まで多彩な部門で競われます。疾走する人馬一体の迫力は圧巻。会場にはふれあいエリアや出店も並び、家族連れにも人気です。

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馬搬 ― 森と馬と人がつなぐ仕事

馬と人が協力して山から木材を運び出す伝統技術「馬搬」。山林が多い遠野では、昭和50年代ごろまで市内の様々な場所でその仕事ぶりが見られたものの、機械化によってその担い手は急速に減少しました。環境への負担が少ない林業として近年改めて注目され、遠野市内では、馬搬振興会が立ち上がる等、技術を受け継ぎながら、広く伝える取り組みが進められています。

◉第47回 東北馬力大会馬の里遠野大会

2026年6月28日(日)に遠野市宮守町柏木平優遊広場特設会場で「第47回東北馬力大会馬の里遠野大会」が開催されます。
馬搬の技術を競技化した迫力の大会が馬力大会です。2つの障害(盛山)を越えながら約130mのコースを駆け抜ける姿は勇壮で、迫力のある光景が広がります。例年30頭ほどの馬が集まり、約3,000人が訪れる遠野ならではのイベントです。

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荒川高原 ― 放牧文化が育む馬と暮らす里の風景

遠野の馬は、「夏山冬里方式」として暖かい季節になると高原に放牧され、広大な自然の中でのびのびと育ちます。荒川高原牧場は中世以来の放牧の歴史を持ち、平成20年には国の「重要文化的景観」に選定されました。早池峰山を望む360度のパノラマと、馬が草を食む牧歌的な風景は、遠野の“馬と生きる文化”を象徴する景色のひとつです。実際に訪れると、広い風景の中で馬が過ごす様子を間近に見ることができます。

◉荒川高原牧場

荒川高原牧場は遠野市と旧:川井村(現:宮古市)を結ぶ山道の途中に広がっています。この一帯は、昔から人と馬が行き交う道として利用されており、現在も、広大な草原には放牧された馬の姿が見られ、昔ながらののどかな風景が残されています。

おわりに

遠野には、馬と人が寄り添いながら生きてきた時間が、今も静かに息づいています。遠野を歩けば、馬を家族のように大切にしてきた人々の思いが、風景や文化の中にそっと守られていることに気づくはずです。ぜひ遠野を訪れ、馬と人がともに紡いできた物語を体感してみてください。

参考:『遠野地方の馬産と上閉伊郡産馬組合 上閉伊畜産農業組合100年の歩み』(発行兼編集 上閉伊畜産農業協働組合)